マツダの5チャンネル体制戦略を知る―マツダ・チャンネル編

現在は「魂動」というデザインコンセプトを掲げ、各車デザインを中心に評価されて人気となっているマツダ。

そんなマツダにはかつて「5チャンネル体制」と呼ばれる戦略が存在していたのをご存じでしょうか。

5チャンネル体制は、販売ディーラー名を5つに分けて各ディーラー(販売チャンネル)を一つのブランドとみなし、独自の車種を投入することで販売力アップにつなげようという戦略でした。

この戦略が計画されたのはバブル景気の頃。ユーノス・ロードスターが世界中でヒットしたことで、得た利益を基にした更なるラインナップ拡大が1990年代初頭に始まったのでした。

この時期マツダの販売チャンネルは以下のように構築されました。

  • マツダ・チャンネル
  • アンフィニ・チャンネル
  • ユーノス・チャンネル
  • オートザム・チャンネル
  • オートラマ・チャンネル

マツダはこの戦略により年間販売台数100万台という野心的な目標を掲げました。

しかし、蓋を開けてみると5チャンネル体制はニューモデルの乱立による混乱、マツダ車同士の競合、そしてバブル崩壊といった要因が重なり、結果としてマツダは経営困難に陥る事態に。

マツダとしては黒歴史といえる失策でしたが、ここで登場したニューモデルは軒並みマイナー車と化し、マニアの間で語り継がれています。

どんなクルマが登場していたのでしょうか。各チャンネルごとに紹介していきたいと思います。

今回紹介するのはマツダ・チャンネルです。

マツダ・チャンネル

5チャンネル体制の中でもメインとなるチャンネル。

小型車から高級車、加えてRV車や商用車など、各クラスの車種を総合的に扱っていたチャンネルです。

そのラインナップには「ファミリア」やカペラの後継車「クロノス」など、マツダの中枢を担う重要車種が揃っています。

マツダ・チャンネルの代表車種

ここではマツダ・チャンネルで販売されていた車種の中から、基幹車種と5チャンネル体制構築の一環として新規登場したクルマをメインに挙げていきます。

ファミリア

Mazda Familia Sedan 1991.JPG
By Kuha455405, CC BY-SA 3.0, Link

マツダのベーシックな小型車。

5チャンネルの新体制構築の頃には7代目となるBG型にモデルチェンジしています。

バリエーションは3ドアハッチバックと4ドアセダン、それに独自のデザインが与えられた5ドアハッチバックの「アスティナ」が用意されました。

3ドアハッチバックでWRCに参戦していたクルマでもあり、4WDのスポーツモデルGT-Xがラインナップされていました。1992年には最強モデルとなるGT-Rが登場。WRCのみならず、国内ダートトライアルでも活躍しました。

アスティナ

Mazda familiaastina bg5p 2 f.jpg
By Toyotacoronaexsaloon, CC BY-SA 4.0, Link

BGファミリアには派生車として「アスティナ」がラインナップされています。

位置づけとしてはファミリアの5ドアハッチバック版になりますが、3ドアハッチバックとは趣が異なる、スペシャリティカーのような風貌が特徴。最大の相違点がリトラクタブルヘッドライトの採用であり、このクルマにシャープな印象を与えています。

海外市場では「323F」の名称で販売され、そのデザインが高く評価されました。

姉妹車としてユーノス・チャンネル向けの「ユーノス100」も登場しています。

クロノス

Mazda CRONOS 18VG (E-GE8P) front.jpg
By Tokumeigakarinoaoshima, CC BY-SA 4.0, Link

カペラ・セダンの後継車としてデビューしたのがクロノスです。

クロノスは5チャンネル体制を語る上で必ずと言っていいほど話題に上がるクルマ。

その理由は、5チャンネル体制戦略の主要モデルとして登場した事、そして5チャンネル体制失敗の要因となってしまった事が挙げられます。

他の4チャンネル向けにも多彩な姉妹車が用意され、その数はクロノスも含めて下記に挙げる8車種。オートザム以外のチャンネルでは何れもこの「クロノス・ファミリー」を主力車種として位置付けしていました。

  • クロノス (マツダ)
  • MX-6 (マツダ)
  • MS-6 (アンフィニ)
  • MS-8 (アンフィニ)
  • 500 (ユーノス)
  • クレフ (オートザム)
  • 3代目テルスター (オートラマ)
  • 2代目プローブ (オートラマ)

ところがクロノス・ファミリーはどのチャンネルでも販売が低調。ファミリー全て合計しても月販販売台数が1万台に満たないという販売不振っぷり。この結果は当然マツダの経営状況を悪化させ、いつしか「クロノスの悲劇」と呼ばれるほどになりました。

販売不振の背景としては、長年親しまれてきたカペラの名前を廃止した上、同じような車格で新しい車名が次々と登場したことで、ユーザーを混乱に招いたことが一因にあります。

しかしクロノスがひどいクルマだったのかというとそんな事はなく、当時クラス最小と謳われたV6エンジンに、直線基調な当時のセダンとは一線を画す曲線を多用したデザインを採用するなど、意欲作でありました。

ペルソナ

Mazda Persona.jpg
By Darren Reallyloud from Abingdon, UK
Cropped, plates and faces blurred by uploader Mr.choppersMazda Persona, CC BY 2.0, Link

ペルソナはカペラをベースにした4ドアハードトップセダン。

トヨタ・カリーナEDの登場により人気が出ていた、Bピラーの無い所謂4ドア・スペシャリティクーペのジャンルに参入すべく開発されました。

デザイン重視のクルマで、低く構えたルーフにより当時のセダンとしてはかなりスタイリッシュ。

このクルマを語るうえで外せないのが、独創的なインテリア。インパネからサイドの内張、リアシートにかけて、連続的にラインを描くように繋がったデザインは、それまでの(それ以降も)クルマに無い個性的なものでした。リアシートの形状自体もソファのような作りで、カタログでも内装は大きくアピールされました。

しかしながら販売実績は振るわず、1代限りで販売が打ち切りに。知る人ぞ知るマニアックなマツダ車です。

姉妹車としてユーノス300がデビューしています。

センティア

'92 Mazda 929 Serenia.JPG
By Bull-Doser, Public Domain, Link

マツダ・チャンネルの最上級モデルとなるのがセンティアです。

それまでマツダの最上級モデルを担っていたルーチェの後継車にあたります。

「広島ベンツ」と形容されるほどに質実剛健でボクシーなスタイルだった先代ルーチェから一変、クロノス以上に曲面を多用して流れるようなプロポーションを形成しているのが特徴。3ナンバーボディによる余裕のあるサイズが曲面構成とマッチしています。

最上級モデルということもあり、当時のハイテク技術が惜しみなく投入されています。太陽光によって停車中の室内換気を行うソーラーベンチレーションシステム、前後マルチリンク式サスペンションに組み込まれる4WS(四輪操舵システム)などがアピールされました。

1995年に2代目へモデルチェンジを果たしますが、コストダウンが目立った為に評価は芳しくなく、2000年には車名が消滅してしまいます。

他チャンネル向けとして、アンフィニよりMS-9という姉妹車が登場しています。

MX-6

Mazda MX-6 Mystere.jpg
By Bull-Doser, Public Domain, Link

マツダ・チャンネル唯一の2ドアクーペがMX-6。

クロノスの2ドアクーペ版という位置付けで、先代のカペラに存在していた2ドアクーペ「カペラC2」の後継車にあたります。

MX-6という名称は既に米国向けカペラC2の車名として使われており、米国側でみると今回のMX-6は2代目にあたります。

カペラC2はあくまでもセダンのカペラがデザインベースであるのに対し、MX-6はクロノスとは趣の異なる独自のデザインを有しています。曲線を多用し、キャビンを前方に寄せたキャビンフォワードを採用することで、優雅でワイド&ローなフォルムに仕上がっています。

また、クロノスに先駆けて2.5LのV6エンジンを採用しており、このエンジンは200psを発生します。

その後の展開

5チャンネル体制の失敗により見直しが図られ、販売チャンネルの統廃合が進められましたが、マツダ・チャンネルは以降もメインの販売店として継続し、マツダ店として現存します。

まとめ

今回は5チャンネル体制時代のマツダ・チャンネルとその取扱車種について紹介しました。

こうしてみると、クルマ自体の評価が低かった訳では無く、バブル期らしく開発費用をかけた贅沢な作りのクルマが揃っています。

身の丈に合わない販売戦略に巻き込まれてしまった不運のクルマたちといえます。

他人と被るのはイヤだけど派手すぎないのがいい…そんなマニアックなクルマを探しているのであれば、ここで挙げたクルマは結構良い線行っていると思います。

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